退職にあたり、勤めていた法人から退職金が支払われることになると、「退職所得の受給に関する申告書」の提出を求められることになります。
そこで、「退職所得の受給に関する申告書」はいったいどういう書類なのか、ご存知ない方のために解説したいと思います。
結論:簡単に節税するために必要な書類
結論から申し上げると、「退職所得の受給に関する申告書」は、簡単な手続きで退職金にかかる税金を安くするためのものです。
退職金にも所得税がかかるのですが、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しないと、税金を高く納めすぎてしまう上に、納めすぎた税金を返してもらうために確定申告が必要となります。
したがって、「退職所得の受給に関する申告書」は退職金の支払者(会社等)へ提出した方がいいということになります。
なぜ節税できるのか
退職金は、長年の勤労に対する報償的給与として一時的に支払われるものですので、退職所得控除や、他の所得とは区別して税額を計算するなどして、税金の負担が軽減される仕組みとなっています(分離課税)。この税金の負担を軽減する仕組みを簡単に利用するために必要なのが、「退職所得の受給に関する申告書」となります。
退職金の支払いを受ける時までに、「退職所得の受給に関する申告書」を退職金の支払者に退出していれば、源泉徴収だけで所得税の納付手続が終了するため、原則として確定申告が必要なくなります。さらに、退職金にかかわる税金負担の軽減の恩恵が受けられるようになります。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合には、退職金について20.42%の税率による源泉徴収が行われることとなります。例えば、退職金1千万円、勤続20年の方を例にしてみると、「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合の源泉徴収金額は約5万円に対し、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合の源泉徴収額は、約2百万円となりとても不利な金額となります。この場合、差額分については確定申告を行うことで還付(返金)されますが、手続きが面倒ですので「退職所得の受給に関する申告書」を提出しておいたほうがいいでしょう。
(根拠法令:所得税法203条、所得税法施行規則77条)
退職金にかかる税金の計算方法
「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合は、退職金支給額から、勤続年数に応じた退職所得控除を行い、さらに1/2を乗じて課税対象となる退職所得を計算します。(1,000円未満の端数切捨て)
※課税退職所得=(退職金支給額-退職所得控除)×1/2
退職所得控除の計算方法
勤続年数20年以下:40万円×勤続年数
勤続年数20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
※退職所得控除が80万円に満たない場合は、80万円が控除額となます。
また、勤続年数に1年未満の端数がある場合は1年に切上げします。
源泉徴収される金額の計算
課税対象となる退職所得の金額にもとづき、「退職所得の源泉徴収額の速算表」により計算されます。
(税額に1円未満の端数が生じた場合、切捨て)
※(課税退職所得×所得税率-控除額)×102.1%
退職所得の源泉徴収額の速算表 | ||
課税退職所得 | 所得税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超 1,800万円以下 | 33% | 1,535,000円 |
1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
源泉徴収について
退職金については、退職金の支払い者(会社等)が退職者へ退職金の支払いを行う際に、所定の方法により所得税を計算し、退職金額からその所得税を差し引いて退職者に代わって納税を行うという「源泉徴収制度」が採用されています。
したがって、退職者が受け取る退職金の金額は所得税を差し引かれた後の金額となります。
注:本記事は執筆時点の法令に基づくものです。